2010年8月3日火曜日

第02回 「命に値段をつけられるのか」

Lecture 1

功利主義・費用便益分析

 ■自動車会社の失敗
 
   ・燃料タンクに問題のある自動車を製造
   ・修繕にかかる費用 > 問題に起因する被害への弁済金
    と見積った
   ・これにより、自動車会社はリコールをおこなわなかった
   ・被害者らにより訴訟に発展、巨額の和解金が支払われた

   何がまずかったのか?

  生命という、基本的人権を脅かすほどの重大な危険のある問題を
  放置したという点がまずい。

  功利主義のリミッターに、ドライバー・パッセンジャーの生命が
  当然あるはずだったが、そのリミッターさえ数値化してしまった。

  そのせいで生命は尊い、という無条件的な道徳的原理が
  存在しているようで機能しなくなった。

  本来ならば、リミッターそのものそれ以上を侵してならない
  はずなのに、リミッターに厚み・効きしろががあるかのように、
  リミッターさえ数値化してしまったことが間違いだった。


  リミッターという言葉に、能動的に機能するニュアンスがあるなら
  ボーダーラインと言ったほうがいいかしら。

  ボーダーラインはそのもの「線」。
  でもグラフや図に書いた時のように、その線の太さは考慮に
  入れないはず。
  でもそれを考慮に入れちゃうとややこしいことになる。

  話それるけど実例。
  手元にあった「昔の地図」に基づいて、境界「線」いっぱいに
  土地を囲み直そうと、塀を立て直した近所で有名な
  ケチバアサンがいた。

  しかし時は21世紀。自治体は登記に基づく地図情報を
  より正確な電子情報として管理していた。
  手描きの「昔の地図」は線の太さが無視できないほど大きく、
  正確でなかったためだ。

  おかげでその塀は実際の境界線よりもはみ出して建てられたとして
  立て直しを命じられた。
  それだけでなく、もともと建っていた塀さえ「実際」よりも外側に
  あったことが判明し、もとの塀よりもずっとちいさく塀を立て直す
  こととなった。

  欲張ったために、そのバアサンは自前の金で2度塀を立て、
  占有していた土地を小さくしてしまった。
  まああるべき大きさに戻っただけなんだけど。


  話もどってつまり。
  原理的な功利主義は無条件的な道徳的原理という考えを
  持っていないがために、それさえ数値化してしまう可能性を
  持っている。

  ボーダーラインの線を数値化できないように、
  道徳的原理は数値化できない。

  費用便益分析自体は効率のよい考え方。
  でもリミッターがないとそれ自体が崩壊する。
  それなのにリミッターさえ数値化しようとするきらいもある。


***


功利主義への反論

 1.個人の権利がないがしろになる
 2.この世のすべてを何かしらの数値に置き換えることは不可能

 2についてはソーンダイクが研究し、数値化できると反論。
 いやな目メーターの原理で、いやな目金額をアンケートによって集計。

 結果例)
 カンザスに住む:30万ドル
 ミミズを食べる:10万ドル
 歯を抜く:4500ドル

 しかし、人によっては喜んでカンザスに住む人もいるし
 ミミズを食べるほうが歯を抜くよりもよいという人もいるはず。
 だから、この調査結果自体が

 「えーちがうよー」

 という話のネタになる時点で、数値化出来るという主張が
 崩壊している。


***


Lecture2

高級な喜び・低級な喜び


 ■人間の好みに優劣はつけられるか

  ジョン・スチュアート・ミルの言葉。

  「望ましいものは、人が望んだもの」

  「高級な喜びと低級な喜びを決定づける際、
   どちらも経験した人が全員ないしほぼ全員迷わず
   選んだほうがより高級だと言える」

  ここで講堂アンケート

  ・シェークスピア
  ・おバカバラエティ
  ・シンプソンズ

  1位人気[好き]はシンプソンズ。
  でも1番[高級]と思うのはシェークスピア。

  「高級な喜びを得るには教育が必要」とミルは言う。
  
  頭ではアブラギッタラーしたラーメンよりも和懐石が
  高級であると考える。
  物事には低級なエスクペリエンスと高級なそれがある。
  
  しかし事実ラーメンもおいしいし、和食もおいしい。

  仮に人の好みをコストで比較できるとして。
  ラーメン二郎10回と和食コース料理1回のコストが同じで、
  どっちかタダで連れてってやると言われたら全員ないしほぼ全員、
  無条件でどちらかを選ぶか。

  いろんな判断基準ひっくるめて人々はどちらを選ぶか
  完全にまとめようがない。

  ミルは区別することは可能であると言ったが、そうでもなかった。