2020年11月22日日曜日

英語版「エイリアンエイリアン」聴き比べメモ

 ※おことわり※

どっちが正解とか間違ってるとかそういうことじゃない。

強いて言うなら好みの問題。英検3級のたわごと。



【はじめに】

まずこの曲、Aメロ+サビで構成されている。

この作り方は90年代以降のJ-POPとは異なり歌謡曲の時代のもの。

サビ直前にタメが入ったりするあたりがポイント。

題材からしてピンクレディーのUFOを下敷きにしているとみられても

まあ仕方ないというかある種自然。

ただしピンクレディーのほうはAメロ+Bメロでサビらしいサビがないという

フォーク(神田川とか)の延長線上(およげ!たいやきくんとか久保田早紀の

異邦人とか)に近いものなのでつくりまで同じかというとそうでもない。

ただし「時代がついてる感」は存分に出てる。


ただ、当時歌謡曲にBメロやサビはなかったかと言われるとそうでもなく

ピンクレディーのデビュー曲であるペッパー警部はしっかりサビからはじまり

移行するためのBメロも入ってる。

余談を言うと、90年「おどるポンポコリン」ではBメロとサビのあいだにさらに

タメ部分「タッタタラリラ」を入れるという技を織田哲郎が発明した。

一方同年たまの「さよなら人類」では時代に逆行してBメロのない曲を

リリースしてこれも流行ったというのが興味深い。



【こまごま】

■0:38

(原詞)

タイトロープ


(クレア先生)

Tightened rope


(rachie)

Tightrope


ここでのタイトロープは綱渡りの緊張感を指すはず。

何かを締め上げる(tighten up、ネクタイやひもで縛るさまをイメージ)

というよりはそのままtightropeでいいと思う。

イメージできない人は「tighted rope」と「tightrope」を

画像検索するとわかりやすいはず。



■0:57 1番サビ

(原詞)

エイリアン わたしエイリアン

あなたの心を惑わせる


(クレア先生)

Alien, I’m just an alien

Someone from another planet playing with your heart


(rachie)

Alien, yes I’m an alien

I come in peace but lead your defenseless heart astray


わたしエイリアンですという自己紹介。

そもそもなぜ自己紹介をするのか。


(もしかして…エイリアン?)


という相手の疑念、問いを感じ取った主人公が

(心の中で)アンサーする情景がそこにある。

相手の問いがあるのだから


「わたしただのいち宇宙人です」

「なんだチミはってか!そうです、わたしが、宇宙人です」


この両者のアンサーは後者のほうがより相手に寄り添っているし、

イエスというたった一語が入ることでその世界観をきちんと

訳詞に入れられている。

遠いところからやってきたjustなsomeoneでは寂しいのだ。あまりによそよそしい。

個人的にここはyesと言ってほしいのだ。

このところrachieはその次にダメ押しで


Alien, that’s right, I’m your alien


とまあ、あーそーですとも、とさらに肯定を強める形に変化させている。

この変化は歌い手側の変化であるが、返答が変化するということは

問う側の疑念がより確信に変化していくさまを行間に入れることができる。

一方クレア先生はやはり最後までjustのままで寂しい。

二人の距離が縮まらなくてなんかこうハラハラしないのだ。


そして「あなたの心を惑わせる」という部分。

英語で直訳するとクレア先生の通り「playing with your heart」

という4語、3/4小節で済む。どっこい日本語では


(a) nata no-ko ko- ro(wo) mado wase ru


とまあ2小節もかかって表現している

そうすると世界観を保ったまま言葉をパディングしないといけない。


英語を日本語字幕にするのは因数分解する作業で、戸田奈津子さんの

思い切った意訳がたびたび問題になるが、その逆はむしろ言葉を

埋める作業になる。

なぜなら日本語は子音に母音が強制セットされるため、同じ音を

あらわした外来語でさえ


girl グォ

gaaru がある


こんな感じでふくれ上がることは避けられない。

言い方を変えると、同じ演奏時間の歌でもフレーズの数は

圧倒的に日本語のほうが少ないのである。

「原稿用紙って400字詰めでしょ、じゃあレポート400ワードで出してね」

と英語の授業で言われて絶望するのと逆である。

ともあれ英語ではそこを埋めてやる必要がある。


(余談)
どっこい戸田奈津子は因数分解ばかりやってるかといえばそうでもなく
ターミネーター2の名台詞

「Hasta La Vista Baby」
あすたらびすた べいびー

だって、直訳するだけなら

さらばだ ベイビー
またな ベイビー

で十分であるが、それだと文字数が少なく口の動きとあわない。そこで

じごくであおう ベイビー

と、アスタラビスタにあわせて超意訳している。
そもそも元のセリフもグッバイで済ませばいいところをわざわざスペイン語で
強調しているのだからそれなりの力点を置くべきポイントであるため
そこをわきまえて訳した結果といえる。
(余談ここまで)


で、クレア先生はどっかよその星からやってきて手前様を手玉に取る

存在ですとしている。

ここでわざわざ宇宙規模の話、事実しか述べてない話をすると

物理的に距離感があるし、同時に心理的にも距離感がある。


一方rachieはたやすく心の中に入り込んでしっちゃかめっちゃかに

する存在ですとしている。

相手の中に入り込むという点で積極的であるし、近づきたいという

興味・欲求をなにかの能力ないし技術でかなえている。


そもそもこの曲はラブソングだ。

相手とくっつきたいという欲求があふれて溢れすぎて震えるのが

ラブソングである。

この点、やはり後者がうまく言葉を選んでいるように思える。


ただしこの表現・発想は英語的ともいえる。

日本人はJPOPでさらっと言葉にできるほどには実際積極的じゃないのだ。

アイラヴユーを月がきれいですねと表現するくらいオクテな

時代さえあったのだ。

このあたり人によってはちょっと積極的すぎない?と感じるかも

しれないけど個人的にはrachieの訳し方でいいと思う。


英訳は訳の仕方を楽しむものでもあるけど、相手の文化で

どう味付けが変化するかという点が醍醐味なのだ。

カリフォルニアロールをこんなの日本食じゃないと言っても

仕方ないし、日本のカレーはインドとは違うがどっちもおいしい。

変化を楽しむのである。


逆を言うと、日本のしょうゆ味のままアメリカに持っていっても

相手の国の口には合わないし、そもそも現地の食材で同じ味のものを

つくれないのだ。

ならば楽しんだほうがずっといい。



■2:28 2番サビ

(原詞)

降りそそぐ 無数の隕石も

ときめく心には 届かない!


(クレア先生)

前半略

They'll never find us on the land of toki-meki!


(rachie)

前半略

Disaster looming past the blue sky Keeps me alive


同じ部分は1番はトキメキであり、クレア先生はあえて

トキメキを日本語で残した。全然オッケー。

一方rachieは韻を踏んでスラング寄りのサンピンで表現。

こっちも全然オッケー。


どっこいここは2番である。

ここで大事なのはときめいてるさまではなく、この主人公はもはや

無敵であるという点が重要なのである。

原詞でも


届かない!


と強調している。

しかしクレア先生は1番に同じくtoki-mekiを持ってきた。

もとがわざわざ変化させてるんだからやはり変化させてほしかった。

一方rachieは「todo kanai」に韻を踏む形で


Keeps me alive


と訳した。

原詞からすると隕石は大気圏で熱く燃え尽きて「届かない」ことに

なりそうな感じであり、クレア先生も同じように訳している。

ところがrachieは恐竜らを絶滅させた隕石さえいっそそれを

真正面から受けたとしてもやはり滅すことはできない

といったニュアンスも含みつつ「とにかく無敵である」さまを

表現している。

この味付け、やはり嫌いじゃない。


逆を言えば、クレア先生はもとの味付けを変えたくないせいか

しょうゆ味がすぎるのだ。

「英語で歌ってみた」の時点で口がソースやケチャップになっているのに

関東風のどす黒いしょうゆベースそばつゆを出されると戸惑うのである。



■2:15 リフレイン

(原詞)

瞳に映らない引力に 気づいてよわたしは


(クレア先生)

Can you believe something you can't see with your eyes

The forces pulling us together


(rachie)

Staring into a pair of eyes gravity escaped

Today you'll see what I am really


まずクレア先生は「見えない力に気づけますか」という意味で

文章が完結しており、気づく対象は「引力」だけである。

そしてrachieは「あなたは今日目撃することになる、私ホント…」と

含みを持たせている。


そもそも原詞は、引力の存在に気づいたら私が何者であるかがわかる、

転じて私という存在について真実を得るため普通じゃ気づけない引力の存在に

気づこうとしてほしいという意味だ。

気づく対象は「引力」であると同時に「わたし」である。

むしろ「引力」はきっかけ・通過点であって「わたし」にこそ気づいて

ほしいのだ。


そしてさらに「わたしは-」でタメて次の「エイリアン」というフレーズが

つながるので、ここで「わたし」が抜けてしまうと

「気づいて」「わたしは」「エイリアン」

という真実セットが完成しない。


なので、ここで「わたし」を置き去りにしちゃいけないのだけどクレア先生は

拾いきれてない。

rachieのほうは一歩進んで「あーもう今日これから知りますよね、はいはい

引力に気づくとかすでにそういう鈍くさいレベルじゃないわよねあなた」

と、ついに相手側の世界にも起き始めた変化を予感させるさまを描いている。

多少勇み足かとも思わせるけど、この二人はもうカウントダウンが始まっている

ことは情景の中にあるのでオッケーなんじゃないでしょか。



■2:35 リフレイン

(原詞)

エイリアン ふたりはエイリアン

高鳴る気持ちが抑えられない

あなたは未確認生命体


(クレア先生)

Alien, we are two aliens

I can't stop the pounding feelings when I'm with you

You are an unidentified life I found


(rachie)

Alien, the two of us aliens,

This pounding feeling between us still unidentified


ここの大きな違いはunidentifiedの使い方。

主人公は自称エイリアンだけあって事象を冷静に見ているようであるが

恋してる間は頭のネジが1、2本普通に飛んでいるもんである。


あなたという存在が未確認である、つかみそこねていると

言っているがその実自分自身さえ自分でどうしようもなくなっていて

当然なのだ。

全体的に独特な言い回しをするこの歌詞の中


「高鳴る気持ちが抑えられない」


というありきたりなフレーズは異質である。

感情が高ぶっているようでいてむしろ却ってひときわ無機質である。


自身の状態(ステータス)を表す言葉を辞書か外部データベース

(という名のインターネット)で検索してそれをあてはめたとすると

もはや自分で自分の状態を把握して自分の言葉で

あらわせてないあたり、自分で自分をつかみそこねている。


ならばこの時点でふたりとももはやunidentifiedと言っていい。

ここをざっくり


This pounding feeling between us still unidentified


という一節にまとめあげたrachieの因数分解は嫌いじゃない。

ついでに韻も踏んでるし。



■ラスト。

しゅきって気持ちはシンプルに表現したほうが自然なんだと思う。





■サブテキスト

https://ja.wikipedia.org/wiki/謎の彼女X

「思春期の少年にとって、少女とは、少女であるということだけで神秘的で、
とてつもなく謎めいた存在なのではないか?」