2017年11月18日土曜日

赤外線とIRカットフィルタ

デジカメには赤外線フィルタが入っている。
これは画質の低下を避けるためとある。

一方でコンデジやスマホにIRフィルタが入ってないという話があるが
センサーサイズの差を加味すれば画質に極端な差があるとは思えない。

この赤外線というのは本当にそこまで悪者なのか確認しにいく。


■手持ちのSL1000で赤外線は写るのか

デジカメには通常ローパスフィルタにIRカットフィルタが組み込まれており、
赤外線の影響は受けないはずである。

ここでよくある実験。
目に見えない光の類の光学マウスやらリモコンやらを撮ってみる。

IR丸見えやんけ・・・スマホ並じゃないの・・・。
どうやらこいつにはまともなのが入ってない様子。
ちなみにEOS Kiss X3は無問題だった。


■材料を探しに行く

「cmos 量子効率」で画像検索すると近赤外線領域でセンサーがこんもり
しているグラフがちらほらある。
モノは違えど、もしこれに近い特性であるならば、このセンサーは
そら紛れもなく近赤外線領域を拾ってしまってることになる。


■お買い物

・IRカットフィルタ
探してみたがまず国内にモノがない。
あっても1万円越えとかいうわけのわからん価格設定。
仕方ないので中華サイトからお取り寄せ。
どうもIRカットフィルタというものはメジャーでなく、UV/IRカットという
バンドパス的な物が一般的な様子。
お値段900円ほど。メイドインチャイナなので品質も効果もわからん。
でもこれしかモノがないわけで。
スペック表記がないのでなんぼのもんかは不明。

・IRフィルタ
上記とは真逆の、可視光をカットしてIRのみを透過するフィルタも買ってみる。
お値段1000円ほど。
IRフィルタにはIR72(IR720)・IR76(IR760)・IR85(IR850)などがあるが
wikipediaを見ると赤外線は750nm以上を指すようなのでこれに近いIR760をチョイス。
モノが52mm径なのでステップダウンリングも取り寄せる。

・SL1000用フィルタアダプタ
所詮コンデジなのでねじ切りがない。
これに無理くり58mm用フィルタをつけるため、ネジ部を両面テープでくっつける
アクロバティックなアダプタを装着する。
国内でセット品を仕入れるとぼったくり価格になるので
こいつも中華サイトから取り寄せる。
お値段500円ほど。
これはS9400W・S9800・S9900、オリのSP-100EEにも利用可。
ていうかSP-100EEもろレンズいっしょで外注バレバレ。
そりゃレンズ品質に不満あるわなあというレビューも。

価格.com - 『画質は安物コンデジ以下』 オリンパス OLYMPUS STYLUS SP-100EE
*れたす*さんのレビュー評価・評判
http://review.kakaku.com/review/K0000622935/ReviewCD=829030/#tab


■検証の流れ

1.通常の撮影条件で赤外線は写り込むのか
自然光 - 可視光 = 赤外線 になるはずなので、同じ条件で
IRフィルタを通した写真が真っ黒でなければその分影響があるといえる。
ここで真っ黒だったらその時点で企画倒れ。

2.赤外線を除去したら画質は目に見えて向上するのか
自然光 - 赤外線 = 可視光 になるはずなので、同じ条件で
二枚撮り比べてみて、900円出してIRカットフィルタを買う価値が
あるのかどうかを確かめてみる。


■可視光をカットしてみる ~準備編~

初IRフィルタに四苦八苦。
また、週間天気も芳しくなくおひさまマークが向こう一週間は来ない。
冬にやる企画じゃねえなそもそもという後悔の念を抱くもはじめちゃったものは
仕方ないというかモノも買っちゃったのでこの自由研究は何かしらの形で
仕上げなくちゃならない。

なにはともあれまずは撮ってみる。
露光の参考にあえてレンズフードでケラレるように仕向ける。

WBオート ISO3200 1/20sec F2.9 24mm(35mm換算) 曇り


R


G


B


まず言えることは、SL1000では赤外線には本来波長の短い光に反応する
青色センサーと波長の長い赤色センサーとが強く反応している。
その一方緑色センサーは不得手(本来はそうあるべきなんだが)なようで
かなり暗くがさがさ。
また、赤色と青色チャンネルが露出オーバー気味。
少しでも暗くするとAFが効かなくなるので、おそらくAF・AEは
緑チャンネルだけを見て決定されている。


■赤外線をカットしてみる ~準備編~

次にIRカットフィルタを試してみる。

フィルタなし 1/200sec F2.9


フィルタあり 1/170sec F2.9


全体的に青みがかった色になる。
特に周辺が強く出る一方中央付近はやや収まった感じ。
また、条件にもよるがAEでちょい暗くなる。
アベレージ測光だとまあそりゃそうだろうなという気がしないでもない。

この時点でおやおやという感じだが幸い中央部分だけはどうにか元の色に近い。
が、それでもやはり青い。あーあ。
斜めから差す光はてきめんにフィルタとレンズの間で青くさわがしくなるはずなので
レンズフードはだいぶ深いものが必須だろう。
ちなみにマウスを撮ったら青い光は消えたので一応効果はきちんとある様子。



■可視光をカットしてみる

一瞬の晴れ間でフリンジ出るようにしてどうにか撮れた一枚。
ズームすると途端にAFが効かなくなるのでピントをあわせたあとにフィルタを
かける要領で撮影。

IRフィルタなし 1/60 F6.5 ISO100


IRフィルタあり 1/60 F6.5 ISO100


(参考)上記IRフィルタあり +3EV


はい、何も写ってないと。さーこの結果どうしてくれよう。
仮に赤外線が影響するならば、人間の目は可視領域上限まで元気よく
100%の感度で感知できるわけでもないんでしてせいぜい650nm以上の領域が
もーいい加減見えんよって具合の一方機械はそんなのお構いなしにバリバリ
検知するのかもしれん。

ならば「はい、もう完っっ璧に可視光越えてます!」というIR760はカット効果が
強過ぎで比較に用いるべきでなかったかも。
かといってこれ以上使いみちのないフィルタ買い足してもなあとここでいったん見切り。
まあ、実際問題なにも写っちゃいない以上どうでもいいんだけど。

参考
第3回 可視域とは?|CCS:シーシーエス株式会社
https://www.ccs-inc.co.jp/guide/column/light_color/vol03.html


■赤外線をカットしてみる

ここから本題。
赤外線を多分に含むお日さまの光の下でオーバー目にとってみる。
ここでフリンジやハイライトを押さえ込めたりできたら御の字。
画像は製品付属のRAW現像ソフトでパラメータいじらずそのまま出したもの。
いずれもWBオート。

IRカットフィルタなし 1/105sec ISO100 F6.5 1200mm相当


IRカットフィルタあり 1/105sec ISO100 F6.5 1200mm相当


はい、色が変わっただけでした。ちゃんちゃん。

ついでに色変わっちゃいますシリーズいろいろ。
赤色がテキメンにやせる。
可視光を残すというよりもすでに可視光に影響が出ちゃってる。
どっちがフィルタありかは書くまでもない。





■まとめ

赤外線は写りに影響しない。
するかもしれないが、直射日光を受けたハイライト部でさえなーんも違いがない。
そしてIRカットフィルタはひどく青みが強く使い物にならない。

よって、IRカットフィルタはまー要らない。おすすめしない。
買っても何も得しないし、実際もうこれ使い所がわからない。


「味のある」画を撮るにしても赤色が飛ぶんで人をとるには向いてない。
なにかこう、無機質なものを撮るとか夕方に持ち出すような運用になるんだろう。
しかしホワイトバランス調整してどうにかなるんかなこれ…。

2017年11月14日火曜日

パープルフリンジと紫外線とUVフィルタ

今回はムダなものを買わそうとする風潮に一矢報いたい企画。


■UVフィルタには意味がない

パープルフリンジは紫外線が原因となりうるという説がある。
またそこから、UVフィルタは有効であるという文脈で語られる。

なぜ目に見えない紫外線が目に見えるフリンジに変化するのか。
そこでは屈折を理由に語られることが多い。

時に光の三原色にのっとると「紫」は

青と赤

でできているのである。
光を感じるセンサーは

赤いきつね
緑のたぬき
青いうさぎ

この3つしかない。
紫の波長に感光するセンサーがあるなら話は別だが、んなのはない。
どっこい赤は緑をはさんで青の対極にある色なのであって黄色みたいに
単純な話で検知・つくられるものではない。

センサーにおける紫色の検出を語るソースとして多分有名どころの
インターネット・アーカイブにあった「デジカメと紫色」を読むと
赤色センサーの領域を青色まで伸ばす仕組みが記載されている。
しかし赤センサーが青領域で拾える感度はかなり低い。ほぼない。
増幅する仕組みについても話もあるが、基本的にセンサーは
純粋な紫の波長にはめっぽう弱いのである。
すんませんきちんと拾えませんというレベル。

であるならば、だ。
元・紫外線がちょいとひん曲がったくらいのものが明確な青色の光ないし、
青色センサーと感度微弱な赤色センサー両者が満を持して拾い上げられる
ほどの強い紫色の光に変化するとでも言うのだろうか


答えは絶対ノーだ。
そもそも「デジカメと紫色」でも、純粋な紫の波長は拾えないと言っている。


今一度確かなことを整理する。
・鮮やかなパープルフリンジは、紫色である。
・イコール、紛れもなく青色と赤色のセンサーで検知している。
・青色センサーは青色より波長の短い領域を満足に拾えない。
・赤色センサーは波長の短い領域をほとんど拾えない。

この時点で紫外線が純粋な紫の波長に変化して写るなどというのは
ありえないのである。
ではパープルフリンジ正体はいったいなんだろかってーと、そりゃ紛れもなく

可視光による色収差でしかない。
端で発生したなら倍率色収差だし、中央部で発生したならそりゃ軸上色収差だ。
単体の青い可視光か、青い可視光と赤い可視光が合わさった紫の光だ。
決して紫外線に由来するものではない。
よって、UVフィルタに意味はない。



■もしパープルフリンジにUVフィルタが効果があるというならの仮説

いろいろありますわね、ネット上に。
これを考えてみる。

それは対照実験で撮り直した際ピント位置に差異が発生したものである。

ピントがより正確な方へ寄ることによって軸上色収差のなりをわずかに抑えた
結果でしか無い。それ以外に画質に影響する要因がない。
改めて大雑把に言えば、UVフィルタに効果があるのだとしたら、紫外線は
写りそのものに影響しているのではなく、オートフォーカスに影響している。

いったん断っておくと、今書いてるのは「フリンジはぜったぜったい紫外線と
関係あるんだい!高いお金出してL41フィルタ買ったんだいウワーン」という
人のため、紫外線にリンクするようにこじつけているのである。
書いてる本人のためでもある一方、そんなバカなという気持ちもありありである。
ただただ楽しんで書いてるのである。

もーちょい踏み込むと、レンズで紫外線の屈折が起きるがこれは問題ではない。
問題は、位相差AFを行う際に登場するカメラ内部のセパレータレンズである。
(セパレータレンズ・AFセンサ自体で写し撮るわけでないので、こいつらの
解像精度はまったくとは言わないがそこそこどまり)
ここに届いた時点で紫外線そのものがAFセンサーを撹乱しているか
あるいはAFセンサーが反応する程度まで可視光よりにシフトした
光によって悪さしだすなりして、対象物のエッジが実際とことなる
位置・形状をしていると判断させてしまうと本来のAF位置からズレてしまう。

※これは
「波長が変わるとAFがうまくいかない」
「色温度によってAF位置が変わる」
という説から派生させる形で書いている。

古い色収差の大きいレンズではL41までいかずとも一般的なUVフィルタを
装着するとパープルフリンジがグリーンフリンジになることがある。
これは上記の理屈でピント位置が微妙にシフトしたのであって、紫外線の
波長が劇的に変化し紫を通り越して緑色にまでなって直接的に
写りに影響したわけではない。
そんなフィルタあったらすげーわ。
(もっとも、縁がグリーンなるというのは赤色寄りにピントがずれてる寸法に
なるはずなのでこれが正しい位置にシフトしたというのはおかしいではあるが)

なおAFは開放でなされるので、絞ればフリンジが改善されるというのは
光の通り道を狭めた結果収差が収まるというおなじみの理屈であって
AF精度そのものに違いはない。
開放はにじむから絞ろうね、という理屈がフォーカシングには通用しない
以上AF精度を上げるには要らぬ光を抑えるしか方法が無い。
その方策としてUVフィルタは奏功するのだろう。
全部嘘だけど。

(まとめ)
少なくとも、コントラストAFを使用するコンデジにはUVフィルタは
効果をなさないというか、ハナから最良のコントラスト具合を見て判断して
いるんでより良くなる余地は多分ない。
なので、コンデジや位相差AFを使用しないミラーレスにUVフィルタは意味がない。
というか、普通コンデジにフィルタつけられない。

また、位相差AFを用いるデジイチにおいては色収差の小さい優秀な
レンズではUVフィルタの効果はごく小さいかほぼ見られない。
つかそもそも作りが良好ならフリンジが起きにくい。
MF派にいたっては無縁。絞るか己の眼とウデでどうにかしてくれ。

要するに、UVフィルタはオートフォーカスの保険程度に考えておくのが
ベストであって、レンズの出来が良ければプロテクターがわりにつけてる
1000円台のMCUVフィルタで十分だということ。

ただ真夏のビーチや真冬のスキー場、空をバックに飛ぶ飛行機やチッチを
追うような、紫外線が多い環境なら安牌切ってやっぱL41出動させるのも
アリっちゃアリかもしれん。
実際は南南東を向いて食べる巻き寿司程度の効能と思うので
高いZeta買わなくていいと思うんだけど。買っちゃったけども。

一方つくりのよくないレンズにL41なぞつけてもフリンジ除去という観点で
言えば実質無意味。ただし自然光下のAF精度に不満がある場合はある程度の
救済になるかもしれない。
残念なEF80-200mm F4.5-5.6 USMは手放したから検証できないけど。

余談を言えば、UVフィルタでコントラスト改善などという実験は無意味で
それは可視光に同じくPLフィルタの仕事である。

要するに、ミクロの世界でピント位置追い求めるよりも1/3段でもいいから
とにかくまず絞ったほうがずっときれいに撮れるよってこった。