歌詞はこちら。
金網に囲まれた場所。
逃げ出せない場所。
裏をかえせば外部から何者も寄せ付けない存在でもあった。
しかしそれは完璧ではなかった。
たまにくぐり抜けてきた侵入者にみんな大騒ぎし、
その都度ホウキを手にした大人たちが追い払う光景に
みんな歓声とため息を漏らした。
今思えば、侵入者からしたら
・指さして大声でわめく
・やたら触ろうと近寄ってくる
・しまいにゃ石投げるやつもいる
というモンスターを前にすれば逃げたくて仕方なかったろう。
入ってきたのが間違いだったのだ。
しかし悲しいかな、パニックになると停止してしまう程度の
思考回路しか持ちあわせていないものですから帰り道を知らない。
どこから、どうやって入ったのかも覚えてないんで
無駄に園庭を駆けまわり、木や塀に登ってはモンスターたちの
大歓声を浴びることとなった。
そんなこんなでやっと一日が過ぎ、わたしたちは"釈放"される。
しかし面倒くさいことに釈放には"身元引受人"が必要で、
その人が来ない限り引き続き外へは出られないのだ。
外が恋しいのか、はたまた引受人そのものが恋しいのか、
待ちきれない子たちは門扉にしがみついて
行き交う大人たちの顔をつぶさに見つめ、誰か近づいてくると
そのたび大騒ぎした。
たとえそれが郵便やさんやガスやさんであっても。
とにかく、「大人」は違うのだ。すごいのだ。
大きいし、財布には紙のお金が入っているし、運転だってする。
そんな大人たちに連れられてひとり、またひとりいなくなる。
お迎えというのは先抜け方式で、特に一抜けはかっこいい。
羨望の眼差しを背に受けながら帰るのはすばらしい。
みんながバイバイと言ってくれる。
・・・ほかにやることがないからというだけのことかもしれないけど。
でもお迎えにやってくる順番というのはあまり変わり映え
するわけでもないので、トップグループに属さないわたしは
みんなにまじってまだかとワイワイするだけ無駄だから、
サルビアをプツンプツンしてはなめなめしてすごしていた。
見上げれば遠い空。
丘の方から風が吹き始める頃、声がかかる。
「えー、おむかえきたよー!!」
■つらつら
・あの丘を越えれば いつもあなたがいた
家路につく前のひととき。
丘を眺めながら思いを馳せる。
「あの丘を越えれば いつもあなたがいた」
自宅の場所と同居家族をこう表現するのはあまりによそよそしい。
そう考えると、これは自宅を指していないし、
親兄弟を指しているわけでもないはず。
・「あなた」とは誰か
"おまえはいい子だ"と上から目線で言ってるのだから、大人だ。
「わたし」をよくしってる大人だ。
でも。
実は「わたし」をよく知ってるけど、
案外それほどよく知らないかもしれない。
普通親ってもんは、乳児でも無い限り理由なしに「いい子だね」と、
ことさら改まって言うことはない。たぶん。
しょっちゅう怒られることばかりやっちゃうから。
そんなにいい子でもないから。
じゃあわざわざ「いい子」だとわたしに言ってくれるのは誰だろう。
無条件にわたしという存在をよしとしてくれるのは誰だろう。
・「錆びた欠片」とは
いい子だと言う割に「錆びた欠片」なんてガラクタしかくれない
ところを見ると実はそんなに愛されてない。
・・・わけないね。
ふむ。
錆びてるもの、積み上げられるものってなんだ。
10円玉?
いやいや、10円玉は「欠片」ではない。
10円玉は10円玉という形でもって完結している。
じゃあなんだ。
錆びてるものってなんだ。それでいてお金じゃない。
それはきっと、錆びた色した甘いものだ。
その欠片を、テーブル、もとい、"食台"の上にある
フタつきのお菓子入れから取り出してチラシ(そう、裏が白い
チラシはたいていパチンコ店のものだ。しかも彼ら彼女らは
それをヒモでつづって帳面もといメモ帳にし黒電話のそばに
おいておくのだ)かティッシュの上に積み上げている。
おきまりのフレーズとともに。
・いつきす
キスをくれる場面てなんだろう。
おやすみのキスかしら。
しかし、それにしてはえらい早い。
日が落ちる前にキスをくれている。
はてさて、別に意味があるのか、
それとも実際そういう生活ペースなのか。
日が沈む前に夕食を済ませて床につき、
真夜中に目覚めては眠れなくてラジオ深夜便を
朝までうつらうつらしながら聴いている人たち。
朝が早いというのは実は夜から続いてましたみたいな
時間を生きている人たちなんだろうきっと。
・繋がれた風さえ動き始める
1番では家路につく前のひととき、回想して過ごしていた。
2番も引き続き回想が続く。
ということは、回想から覚めて戻ってきた情景はもとの場所だ。
雨が降って少し冷えたせいか、まだけっこう明るいのに
風は凪いで、そして今度は丘の方から陸風が吹いてきた。
そんな夕方より少し前、岬近くの情景。
そしてリフレインによって回想から覚めた状態からさらに
意識がこっちへもどってきてフェードアウトする。
時に、この風は縛られていない。
繋がれている。
普通、風を視覚化するなら風車か旗だ。
ススキやウージでもいい。
しかしそれらは少しの風でもゆらゆらくるくるワサワサする。
さて。
けっこうな風を受けてはじめて格好のつくものが
そこにあるという仮説。
そしてそれから導かれる時期・イベント、みんなの話題。
理由なく空を見上げたのではなく、その存在がきっかけで
屋根より遥か高い空を感じることとなった。
もしかしたら、その光景に子供らしい想像をしたのかも。
するとどうしても足りない。ひとつだけ足りない。
そこにいない。
・てか、ポロメリアどこよ。
とうとう歌詞の中に登場しなかった「ポロメリア」。
ポロメリアは花だ。プルメリア。
繊細な言葉を紡ぐこの歌い手が花の「匂い」という言葉を
使うだろうか。花は香るものだ。
であるからに、「かわいい夢の匂い」はプルメリアの香りではない。
プルメリアはいったいどこにあったのか。
この歌の中いったいどこに描かれていたのか。
南国情緒あふれる花と夢見る時間をつなぐもの。色とりどりのひらひら。
夢を見るとき至近距離にあった匂い。
その匂いのもとをたどれば描かれている場所は得られる。
そしてそれは決して「プルメリア」の花の香りではなく
世界にひとつだけしかない「ポロメリア」の匂いだ。
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主人公が、永遠のさよならをした花、時間、思い出の歌と思ったのさ。